4 ルナツー脱出作戦
一見地味だが、機動戦士ガンダムの「テーマ」である「学習」が開示される非常に重要な回。
まず、タイトルがすごい。「ルナツー脱出作戦」である。前回戦闘して勝利した結果、なんとかたどりつくことができたのがルナツーなのに、次回予告で予告された第4回のタイトルがそのルナツーの「脱出作戦」て。ストーリーのスピード感、ワープ感の演出にタイトルが貢献している。
ルナツーに到着したホワイトベースだったが、民間人を下ろすことを拒否されるどころか、アムロやブライトたちは無断でホワイトベースやガンダムを操縦した罪で、ワッケイン司令官に拘束されてしまう。
民間人の声。「サイド7に戻りたい」と「(ルナツーに)住み着こうと思ったのに」。サイド7になんてもう戻れるわけないのだから、民間人の認識がいかにズレてるのかという描写になっている。
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部屋に閉じ込められるアムロたち。食事だけは運ばれてくるが....。
お前が言うなというツッコミ待ち。リュウさん、いいボケだ。
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『機動戦士ガンダム』では具体的に内面からの心理描写を細かくはしないのだが、人間をその立場の軸ごとにプロットして、それぞれの立場として「だとしたらどう動くか」「どういう判断をするか」という描写は比較的精緻になされている。
たとえばその軸の一つが、軍人-士官候補生-民間人という軸。民間人に対してはブライトやリュウは「軍人」だ。だけど、ワッケインからすると「士官候補生」「下級軍人」なので「軍人ではない」。つまり「マージナルなもの」として描かれている。
他にも
男性-女性
アースノイド-スペースノイド
バトルスキル高-低
ディシジョンメイク低
成長性高-低
大人-未成人の若者-少年-子ども
といった軸がある。もちろん連邦-ジオンという軸もある。
たとえばこの軸で行くと、ブライトは士官候補生-男-アースノイド-バトルスキル低-ディシジョンメイク低-成長性高-未成人の若者-連邦、みたいな感じ。シャアなら軍人-男-アースノイド(おそらく)-バトルスキル高-ディシジョンメイク高-成長性低-大人-ジオン。「この軸でこの立場の人からするとこう判断するしこう動くが、そうじゃないほうの人はこう考えるしこう動く」という形で、人間が結構丁寧に描写されている。
そして、ガンダム世界、特にこの第4回では、戦争モノのアニメを通じて軍紀に縛られ自分で考えることのできない軍人の時代は終わったことを描いている。
前回ではダメダメなブライトを通じて、「軍紀やルールに縛られているだけの存在はろくに決定ができない」「女性や子どもたちも含めた決定のほうが正解に近い」を描いていたが、今回はそのブライトが、ワッケイン司令官=軍部の不条理にさらされる。
前回の体験と今回の体験でブライトは「教科書通りに軍隊の規律通りにしていてもダメだ」ということを学習する。そして、ワッケイン司令官に意見し、最終的には軍紀に背き、司令官に反逆する。
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反逆するブライトを見て、それまでブライトに対して敵対的な態度も隠していなかったアムロもセイラもブライトを見直してるように思える。
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アムロとブライトが二人で同時にルナツー基地の軍人たちにキックをお見舞いするシーン。前回まであんなに反目しあってた二人の、ここではじめてその息があう。共通の敵が味方をつくるのだ。
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そしてブライトのこの一言。「仲間を集めろ」。ここで初めてブライトが「仲間」という言葉を使う。これまでは「戦闘員」とか「全員」のような言葉を使っていたのに。
我々は後のブライト・ノアを知ってしまっているから、「ハサウェイ・ノアの父親でしょ?」「ヤシマ家の令嬢ミライと結婚して逆玉状態の」「頼れるリーダーだよね」と思ってしまうが、実は違う。何も知らない、何もできない、その割に軍人らしい威張り方だけは覚えてる地球生まれ地球育ちのおぼっちゃん。それがブライトなのだ。
じゃあ、そのブライトの何がいいかというと、彼は様々な体験・経験を積み重ねることによって、どんどん自分を変えていく。学習していく。成長していく。そして、その「自分で考え、様々な失敗や成功を経験し、学習することこそが軍事的にも最強だ」というのが『機動戦士ガンダム』が描いていることなのだ。戦争モノを通じて戦後民主主義的な個人が最強ッ!を提示していると言ってもいい。
これは前回3 敵の補給艦を叩け!でのシャアの次のセリフでも強調されている。
どういうことなのだ / モビルスーツにしろあの船にしろ / 明らかに連邦軍の新兵器の高性能の前に / 敗北を喫した / それは分かる しかし / 一体どういうことなのだ / 連中は戦法も未熟なら 戦い方も まるで素人だ
確かに新兵器は強い。とは言ってもそれだけではない。未熟だけど、軍隊ではない。そんな非正規の個人の力が組み合わさったとき、歴戦の士であるシャアにも対抗できる力になるのだ。
そして、これは人間だけの話ではない。というのも、モビルスーツとしてのガンダムの圧倒的な強さ、その「ザクとの違い」も「学習することにある」と説明されているからだ。
拘束された部屋の中で雑談するホワイトベース乗組員たち。「ほんじゃあさ ガンダムが最高にジオンのザクより優れてるってのは何なんだよ」。カイはたずねる。するとアムロが答える。
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「戦闘力さ。今までのザクタイプのモビルスーツと違って戦いのケーススタディが記憶される」
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「ってことはガンダムって戦闘すればするほど戦い方を覚えて強くなるって理屈か?」
ガンダムが強いのは使ってる部品や、武器の威力にあるのではない。ガンダムが強いのは「コンピュータ」部分にある。そしてそのコンピュータは「教育型コンピュータ」(1 ガンダム大地に立つ!!でも言及されていた)と呼ばれており、ケーススタディ、つまり経験値が上がれば上がるほど強くなるところにある。
当時コンピュータというと、コンピュータ自体は進化していったかもしれないが、「既存のデータやスタティックなものを分析させると強いが、融通がきかず応用に弱い」ようなイメージが圧倒的だったのではないか。これに対して、ガンダムが提示するコンピュータは「学習する」「成長する」コンピュータなのである。それは現代のAIなどに近いイメージとしても読める。そんなことは期待せずに見ていたが、実はガンダム、そのテーマは非常にアクチュアルだったりする。
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実際にガンダムの戦い方はどんどん変化する。今回はなんと急に日本ビームサーベルを出しての二刀流だ。
こうなるとガンダムは2つのものの対立、そのどちらが勝つかの物語だと言える。すなわち
①これからどんどん成長していく未経験パイロット=アムロ + 学習するコンピュータ=ガンダム
②既に幾多の経験を積んだ歴戦の覇者=シャア + そのシャアの思った通りに動かせるシャア専用ザク
このどちらが強いか?という究極の「盾と矛」がガンダムだ。
またこれは別の言い方をしてもいいかもしれない。[* 学習するコンピュータを使った学習する個人(ガンダム+アムロ) vs 学習しないコンピュータを使った学習する個人(ザク+シャア)」の戦いだ。
では、学習、学ぶとは何だろうか。これもガンダムの中で描かれており、それはシャアはなぜ強いのかの説明にもなっている。結論から言うと、人の言いなりにならず、自分で考え、状況を判断し、リスクをとり、失敗したり成功したりの経験を積み上げることだ。
とにかくシャアは「リスクをとる」戦略を好む。だからこそここまで強くなったのだろう。そして、ブライトも前回リスクを取り、今回もそうした(司令官に反逆した)ことで着々と成長している。
単に「学習が大事」だけでなく、ガンダムがこだわっているのはその学習観である。
今回、パオロ・カシアス艦長が怪我で亡くなるのだが、それを受けてワッケイン司令官が言う。
ジオンとの戦いがまだまだ困難を極めるというとき、我々は学ぶべき人を次々と失っていく。寒い時代だと思わんか?
このワッケインの学習観が「古い」否定すべき学習観として提示されている。ワッケインにとって「学ぶ」とは自分より経験のある人間から「教わる」こと。だから、年配の尊敬する軍人がなくなると「寒い時代」だという認識になる。
けれども、そうじゃないだろう。むしろこれからは、自ら経験し学ぶ教育型コンピュータ搭載モビルスーツ=ガンダムの時代であり、それこそが「西暦1979年=宇宙歴0079年」の若者たちの強さなのだ。
パオロ艦長がすごいのは、そんな若者に指示を出すのではなく、活躍できる場所を与え、「責任はすべて私が取る」と言いきったところだ。この姿勢こそパオロからワッケインは学ぶべきだったのだが......。
これまでまったくそんな気配なかったのに、おもむろに父の心配をしはじめるアムロ。次回へ続く。
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